物語を作る人の道標ストーリーメイカーの雑記

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続編パシフィック・リム アップライジングの何がダメなのかストーリー制作視点で書く ※ネタバレ注意

前作パシフィック・リムは最高すぎた。

私はウルトラマン、平成ゴジラガメラガンダムエヴァで育った。小さいころビルの背後の空を見ては、そこにロボットや怪獣がいる様子を幾度となく想像してきた。

パシフィック・リム、想像と同じ、それ以上の世界がそこにはあった。イェーガーの重量感、KAIJUの絶望感、個性の強いキャラクターたち、熱いストーリー、心が、魂が震えた。

 

そんな私が見てきました、パシフィック・リム アップライジング。

pacificrim.jp

予告を見た時点で危険な香りがプンプンだったが、もしかして、もしかして面白いかもしれない・・・・・・。戦い続ける限りはまだ負けてない。そんな奇跡を期待して、祈るような気持ちで見に行ったのだ。

が、私は予想通り裏切られた。いや、予想を超えて打ちのめされた。

はっきり言って前作ファンでこの映画を面白いと言っている方はどうかしている。100点が0点になったのではない。-100点どころか、-1億点にしてしまったのだ。アップでもライジングでもない。それどころかダウンでさえもない。ブレイクでも足りない、デストロイ(修復不能な破壊)である。

もし第3作があったとして(悲しいことに、この2作目の出来では間違ってもないと思うが)そこでアップライジングの失敗を帳消しにできるという一縷の望みをも消し去る取り返しのつかない失敗もしている。完全に監督も脚本も力不足です。ありがとうございました。

 

この虚無感、脱力感を何処にぶつければよいのかもわからない。が、何処かにぶつけずにはいられない。気が収まらない。だから、こうして書いておくのだ。もし同じ気持ちの人がいたら、少しでも溜飲を下げられるよう。私たちの愛した怪獣とロボットの鎮魂のために。

 

※あくまで個人の感想ではありますが、あまり個人的な視点では書いていません。ストーリーの構造からの視点を中心に書いていきたいと思います。

1回しか見ていないので(2度と見る気にはならないが)多少間違いもあるかもしれませんが、世の中のほとんどの映画視聴者は初見ですので、初見も意見も重要だと思うよ。

 

〇だれもかれも動機が不明

細かい破綻は多すぎて、すべて上げる気にもならないが、ストーリーの根幹にかかわる部分が全くもってダメなので救いようがない。

主人公のジェイク(スターウォーズの彼)、準主人公アマーラ、彼らは何がしたいのであろうか。

 

●よくわからないアマーラ

アマーラはKAIJUが再び現れたときのためにイェーガー作っているというが、リアリティがなさすぎる。KAIJUに恨みがあったとしても説得力がなさすぎる。現実世界で考えてみてほしい。戦争が終わってから戦車を作り出す子どもがいるだろうか。架空の物語だから何でも言いわけではない。リアルである必要はないが、リアリティ=納得感は絶対に必要なのだ。余計な設定を加えず、単にギーク女子とでもした方がよほど説得力がある。

もう一つのアマーラの問題はKAIJUに恨みがあることがストーリー上、何も生かされていないことだ。ジェイクとドリフト失敗する場面でこの設定が登場するが、その後登場せず忘れ去られている。「KAIJUに恨みがあり精神が不安定なためドリフトに失敗する、しかしそれを克服してドリフトする、そしてKAIJUを倒す」という流れにしなければ設定を登場させる意味がない。ストーリーの根幹は心の変化だから(詳しく知りたい人はこちらを参照ください)この部分での失敗は致命的だ。

そして、彼女は防衛軍に入ることになるが、なぜ防衛軍は彼女を入れようとしたのか説明がないし、彼女側の動機も不明。防衛軍のイエーガー相手になかなかの立ち回りをしたという理由でスカウトされたのかなと推測するが、表現されていない。後で説明するが、そこは推測しろよという反論は無意味だ。作品において描いていないことはないことと同じだからだ。防衛軍へのスカウトの場面があり、彼女も「憎きKAIJUを私の手で倒せるんですか! 本物のイエーガーに乗って! やります!」と嬉々として返事でもすればよかったのだ。それがないから、同室のロシアの女の子に難癖をつけられても耐えている意味が全く分からない。私だったら強制的に入らされた部活でお前なんかいらんなどと言われたらはいそうですか別に好きで入ったわけじゃないしと言って去るだろう。みんなもそうでしょう?

 

●よくわからないロシアの子

アマーラ入隊経緯が描かれないために、ロシアの女の子の行動も説得力に欠けてしまう。ロシアの子は正規入隊だから、スカウト入隊のアマーラが気に入らないと言っていたが、そもそもアマーラがスカウト入隊なのか何なのか描かれていないからよくわからないし、ロシアの子が言う通り、イエーガーを自作してしまうのだから技術班に入るのが筋なように思うがパイロット組だ。全くもってわからない。

その後の友情的なものが芽生えた感じの描写も唐突すぎて意味不明。突っかかる先輩と新入部員がお互いを認めて仲間になる話は王道パターンだが、そうもならない。脚本の無能としか言いようがない。

 

●よくわからないジェイク

そして主人公ジェイク。そもそもジェイクはなぜぐれていたのだろうか。明確な表現はなかった。なんか微妙にあった気もするが、あっても気づかないくらいだったら意味がない。繰り返すがストーリーの根幹は心の変化であり、最も重要な要素は時間を割いて表現すべきだからだ。ただただグレている若者に誰が感情移入するだろう。あなたはその辺のチンピラが好きですか?

偉大な父と比べられ常にプレッシャーを感じていた、という過去を表現すれば共感を呼べたのにもったいない。その辺は感じ取れ、という意見があるかもしれないが、先にも書いたがエンタメ作品において「描いていないことはないことと同じ」。これはよくストーリーのアドバイスをする際に漫画初心者の方に言っている基本中の基本。いくら良い設定があっても、表現されないものはないに等しい。

誤解なきよう書いておくが、厚い設定が無用ということではない。設定は表現として現れるべきものなのだ。例えば、道端に人が倒れているとする。助ける、声だけかける、他の人を呼ぶ、無視する、これらの行動のどれを選ぶかはそのキャラの設定による。嫌われ者だが心が優しい人なら助けるだろうし、気が弱いが正義の心を持っている人は助けを呼ぶだろう。嫌な奴なら無視をする。ちなみに制作側にキャラの履歴書を作れ系のアドバイスがされることがあるが、それは作者の頭の中で具体的にキャラをイメージする助けになりますよ、という意味であって、それを全部描きなさいということではないのだ。

 

●よくわからないマコ

少しわき道にそれたが、ジェイクは半ば強制的に防衛軍に入れられる。なぜマコが彼を入隊させのだろうか。説明なし。才能があるのにやる気がないキャラがやる気を出して結果を残すという流れは王道パターンなのだが、それもしない。(この辺は潜在能力の話)マコの動機が「才能があるのにもったいない若者を育てたい」のならば理解できるが、そもそも才能があるという描写がないし、そうだとしても説明されていない。他の理由かもしれないがそれもわからない。

そして入隊後もやる気を見せないジェイク。彼には軍で頑張る動機がないから当然だ。マコが死んで少し態度を改めたように見えるが全くもってもったいない。心が変化する瞬間はストーリーの最も盛り上がる場面の一つなのに。

そして変化の仕方もよろしくない。全くやる気がない状態からやる気のある状態への変化するのは無理がある。やる気がないように見えて実はやる気を出すのが怖い、なぜなら目立つと父と比べられてしまうから、からの、やる気を出すならば納得感がある。肉親が死んだからと言って、やる気のない人間が急にやる気を出さない。リアリティがない。100歩譲ってその変化を採用するとしても、変化の場面を描かないとはどのような理由からなのだろうか。マコの亡骸を抱いて雨の中で泣きでもすればよいのだ。もったいなすぎる。

余談だがそもそもマコが死ぬタイミングが悪すぎる。マコが死ぬ→味方が来て敵が去るという流れだから、どうしても後の事柄の方が目立ってしまう。味方が来て敵が去ると同時か、直後にマコが死ぬ流れにすれば戦闘中にコクピットを出る無能なパイロットの図にもならなくて済むのに。

マコを死なせたのも致命的。もうマコの活躍が見られないではないか。デストロイである。

 

〇あと細かい重大なミス

●マコの決死のメッセージ

マコが死ぬ直前に送ったメッセージは結局何だったのだろうか? 基地の地図であることはわかったが、そこに行く理由はあったのだろうか? 行ったら敵機が出てきたけが、あそこに潜んでいたということなのだろうか? マコは何故それを知っていたのだろう? なぜ死ぬ間際まで誰にも伝えなかったのだろう? 行く必要はあったのだろうか? 別に行かなくてもそのうち襲撃しに来てたのだし基地事態に意味はなかったのだしいいのではないか? 行くにしてもジプシーで行く必要があったのか? 飛行機ではダメなのか? 雪がすごくて飛行機では行けないなど推測はできるが、その位説明してくれ。でもその場合、空から行けない場所になぜ基地を作ったのか疑問が残る。何もかもが意味不明。細かいことだが、マコのメッセージ送信できてなかったくだり必要だったのだろうか? 

 

●中国の彼女リーウェン

最初はつんとして嫌な感じだが、髪を振り乱して一生懸命な姿はかわいい。とは思うが、彼女は何がしたくてどんな履歴なのか? なぜイエーガーを操れるのか? なぜ無人機投入に人生をかけているのか? 単なるビジネスのためにやっているにしても、家が貧乏で嫌な思いをしたからビジネスで成功するんだとか、それこそ家族が怪獣に殺されたのでやっつけたい、とか何でもいいから説明して欲しい。敵役(みせかけだったが)はその位の説明が絶対に必要。動機のわからない敵キャラに対しては憎しみも親しみもわかないのだ。

 

●愛すべき博士たちが・・・・・・

キャラ変わりすぎ。監督は前作を見たのだろうか? ハーマン博士が常識人になっているのも許せないが、KAIJUの内臓をいじるのが最も許せない。彼は理論派で潔癖症なので内臓とか触りません。昔、内臓をこっちに寄越すなよ!って怒ってたでしょう。

それからニュートンは金で動きません。操られていることが後にわかるが、見せかけ上の納得いく理由くらい示しておくべき。全く意味が分からない。

そしてニュートンを敵に仕立ててしまうということ自体が致命的なミス。このミスによって、二度とあの尊いコンビが見れなくなってしまった。泣ける。

 

●最終決戦、正規パイロットはどこ?

何処に行ってしまったのか? なんで子どもしかいないのだろう? 量産機の襲撃でみんな死んだ? というか今までも見かけなかったけど、前回のKAIJU騒動から10年も経っていてどうなっているのか? 残された最後の希望は訓練兵たち! みたいな出し方だった気がするが、前提が表現されていないので意味不明すぎる。そして最後の希望出動のくだり、唐突なジェイクのスピーチ力向上も気になるし、周りが慌ただしすぎる。そんな全員の運命を握る人たちが出撃する大事な場面、みんな作業を止めて見送ってやったらどうか。そもそもあの組織どうなっているのだろう? 指揮系統が想像つかなすぎる。何で子どもたちの教官みたいな人が指揮してるの? 無法地帯なの?

 

●大気圏突入

ジプシーが最後の攻撃で大気圏突入しするるが、目の部分が破損していて、パイロットが露出している状態。機体が赤くなるほど高温になっているがノーマルスーツで大丈夫なのか? 顔面も露出してるように見える・・・・・・。未知のテクノロジーなのか?

 

●富士山? レアアース

富士山を決戦の場にしたかったのはわかるが、レアアースはない。そもそも富士山にレアアースあるのか? 他の場所にはないのか? 説得力がなさすぎる。それであれば、富士山には未知の〇〇パワーが秘められていて・・・・・とでもしたほうがよほど説得力がある。レアアースって笑

富士山の位置はひどすぎるが、他が酷すぎてそれはもはやどうでもいい。登場人物どころかKAIJUまでも動機が不明というひどさ。

 

●アマーラとジェイク

2人が理解しあって仲良くなったという終わりだが、とってつけた感がひどい。そもそも2人のことがこの段階で理解できていないので、仲良くなったことに何も感じない。関係もわからない。先生と生徒なの? パートナーなの? 友達なの? あなたは、よく知らない人たちがスキー場で雪合戦しているのを見るのが楽しいだろうか?

 

●アマーラがぽっちゃり系なのは何故だ

最後に。別にいいのだが、何故だ? 最近の多様性を表現する流れなのだろうか。どこぞの水着会社のモデルがスレンダーすぎると批判されていたのは記憶に新しい。その思想自体は全然否定しないが、そういう表現は他でやってもらったらよいと思うののだが・・・・・。

 

〇つまりもう先はない

イエーガーの重量感が失われているとか、スーツがダサくなったとか、日本の看板なのに中国語が描かれているとか、画面作りが下手すぎるとか、チープな逃げ惑う人々とか、無駄な会話が多すぎるとか、他にも突っ込みどころは山のようにあるが(突っ込みどころしかない)もうそういうことがどうでもよくなる、根本レベルの駄目さがわかっていただけただろうか。愛すべきマコもニュートンももう戻ってこない。

どうして映画はこうなってしまうのだろう。沢山の人や権利がかかわるからなのだろうか、そのハンドリング含め監督の力量なのだろうか。(実写進撃の巨人シンゴジラのちがいなのだろうか)

ということで、これから見る人は心して見よ! そして一緒に泣こう。

 

あとがき

いっきに書いたら少しは心が収まりました。

アップライジングはなかったことにして、続編、もう自分で書く!近日公開予定(仮)